2020年09月24日
新型コロナ、「収入の減少」「テレワークの定着」「非正規へのしわ寄せ」への課題が浮き彫りに~(独)労働政策研究・研修機構調査
(独)労働政策研究・研修機構が8月26日、5月から8月にかけて行った「新型コロナウイルス感染拡大の仕事や生活への影響に関する調査」の一次集計結果を公表しました。公表された調査結果のポイントをみてみましょう。
◆「民間企業の雇用者」では、就労時間や月収に揺り戻し傾向も夏季賞与は約3割が減少
4~5月にかけて「勤務日数や労働時間の減少(休業を含む)」があった人の割合が急増したものの、7月末現在ではやや低下し、他方、引き続き増加した「収入の減少」がこれを上回った。また、7月末現在も4月1日時点と同じ会社で働いている場合の労働時間や税込み月収額の変化をみると、いずれも5月の第2週にかけて低下した後、揺り戻されてきたものの、7月の最終週現在でも通常月の状態には未だ戻り切っていない。
7月末現在の「民間企業の雇用者」(4,194人)の直近の月収額では、新型コロナ問題の発生前のもともと(通常月)の月収と「ほぼ同じ(変動1割未満)」の回答が約7割(70.2%)の一方、「減少した」割合計も4分の1を超えた(26.7%)。また、昨年は夏季賞与(特別手当)を「もらった」場合(2,495人)に、本年の支給額がどうなったか(どうなる見込みか)尋ねると、昨年の支給額と「ほぼ同じ(変動は1割未満)」との回答が半数を超えた(51.9%)一方、「本年は支給無し」(2.0%)を含めて約3割(30.4%)が「減少した」と回答した。
◆休業手当は「半分以上が支払われた」人が半数超、「まったく支払われていない」が2割超
影響として「勤務日数や労働時間の減少(休業を含む)」を挙げた「民間企業の雇用者」938人のうち、自身は働きたい・働ける状態なのに、勤め先から自宅待機を命じられたことが「ある」割合は6割超(64.3%)。また、「休業」を命じられたことが「ある」場合(603人)の勤め先からの休業手当については「休業日(休業時間数)の半分以上が、支払われた」との回答が半数を超えた(54.1%)ものの、「休業日(同)の一部が、支払われた」(21.9%)、「(これまでのところ)まったく支払われていない」(24.0%)もそれぞれ2割超みられた。
◆「在宅勤務・テレワーク」の実施日数は、いったん拡大後急速に減少
「在宅勤務・テレワーク」の1週間あたりの実施日数の変化をみると、新型コロナウイルス感染症の問題が発生する前の通常月では、7割超が在宅勤務・テレワークを「行っていない」と回答していたが、その割合は5月の第2週にかけて顕著に低下し、「在宅勤務・テレワーク」が急速に拡がった。しかし、5月の最終週以降は「行っていない」割合が揺り戻し、7月の最終週現在で「行っている(1日以上計)」割合は半数を下回っている。
◆フリーランスを含めた調査結果では、「家での食費」を「切り詰めている」割合も増加
全有効回答者(民間企業の雇用者+フリーランス計4,881人)を対象に、過去3か月間(5~7月)の世帯全体の家計収支を尋ねると、「収支トントン」が1/3を超えた(34.6%)ものの、支出が収入を上回る赤字計(28.7%)が黒字計(25.9%)を上回った。「正社員」は黒字計が優勢だが、「非正社員計」では赤字計が1/3を超え(33.6%)、さらに「フリーランス」では4割超(43.2%)と高く、黒字計から赤字計を差し引いた赤字超過が▲28.2ポイントに及んでいる。
また、全有効回答者を対象に、「感染の収束が見えないこと」についてどれくらい不安を感じているか尋ねると、かなり不安とやや不安を合わせた「不安」計が8割を超え(86.9%)、「不安はない」計(9.5%)を大きく上回った。特に「収入の減少に伴う生活への支障」に対する不安は、「正社員」(61.3%)より「非正社員計」(65.6%)、「フリーランス」(71.1%)ほど高く、昨年1年間の世帯年収が低いほど概ね高まる傾向がみられた。
これらの結果をみると、今後の課題として、正規・非正規を問わず「収入の減少」に対する対策、いったんは増加したものの減少に転じた「テレワークの定着」、多くの不安を抱える「非正規へのしわ寄せ」への一層の対策が求められるところです。
【労働政策研究・研修機構「新型コロナウイルス感染拡大の仕事や生活への影響に関する調査 」(一次集計)結果(PDF)】
対象事業場の約半数で違法残業を確認~令和元年度監督指導結果より
◆15,593事業場で違法な時間外労働確認
9月8日、厚生労働省は令和元年度の長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果を公表しました。
働き方改革関連法による時間外労働の上限規制が令和元年4月1日より中小企業にも適用されたこと等もあってか、対象事業場数は平成30年度の29,097から約1割増の32,981で、そのうち15,593(47.3%。平成30年度は11,766(40.4%)で違法な時間外労働が確認され、指導が行われています。
◆健康障害防止措置に関する指導状況
監督指導の実施事業場のうち15,338(46.5%)で、健康障害防止措置が不十分として、長時間労働者に対する医師面接等を講じるよう指導が行われています。平成30年度の20,526(70.5%)に比べて減少していますが、まだまだ多いことがわかります。
◆対象事業場の7割近くが30人未満、企業規模別では3割近くが300人以上
事業場規模別に見ると、監督指導実施事業場の41.7%を10~29人の事業場が、25.3%を1~9人の事業場が占めており、30人未満の事業場で約7割を占めています。平成30年度と比べてこの割合は増えており、これらの事業場で特に注意が必要といえます。
企業規模別に見ると、29.3%が300人以上、24.7%が10~29人、12.8%が100~299人となっています。こちらも平成30年度に比べて30人未満の割合が増えています。
◆「商業」の事業場で是正勧告が急増
監督指導の対象事業場32,981のうち、商業の事業場は8,009(24.3%)で、そのうち6,088(76.0%)で労働基準関係法令違反がありました。平成30年度の4,647事業場への実施と3,097事業場での違反に比べると、ほぼ2倍となっています。
◆11月には「過重労働解消キャンペーン」も実施
厚生労働省では、11月に「過重労働解消キャンペーン」を実施し、重点的な監督指導を行うとしています。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、3月17日に発出された依命通達では、中小企業等に対する相談・支援について、「労働基準関係法令に係る違反が認められた場合においても、新型コロナウイルス感染症の発生および感染拡大による影響を十分勘案し、労働基準関係法令の趣旨を踏まえた自主的な取組みが行われるよう、きめ細かな対応を図る」ともされていますが、自社の時間外労働の実施状況や健康障害防止措置に関する対応に問題がないか、改めて確認しておき、不安がある場合は速やかに専門家に相談しましょう。
「ビデオ会議に関する意識調査」~SB C&S株式会社調査より
◆調査概要
SB C&S株式会社(以下「SB C&S」)が、新型コロナウイルス感染症の拡大によりテレワークを導入する企業の急増に伴い、仕事でビデオ会議を利用する機会がある人を対象に「ビデオ会議に関する意識調査」を実施し、その結果を公表しました。
・調査期間:2020年7月11日~13日
・調査対象:20~69歳の仕事でビデオ会議システムを利用する機会がある男女400名
◆調査内容&結果
■Q1 テレワークの導入により、影響を受けていると思う業務は?
1-「社内会議」(69.5%)、2-「社外会議」(49.8%)、3-「報告・相談」(37.8%)
また、営業する機会や営業を受ける機会について、ともに7割以上の人が減ったと回答しています。
■Q2 ビデオ会議にはどのような利点があるか?
1-「移動時間や交通費が減る」(80.0%)、2-「無駄な会議が減る」(42.8%)、3-「会議室の確保が不要」(40.3%)
対面会議と比較して、ビデオ会議のほうが時間が短縮されると感じる人は約4割で、その短縮時間の平均は23.2分という結果が出ています。
■Q3 ビデオ会議が主流になる一方で、対面での会議に変化はあったか?
1-「無駄な会議が減った」(45.0%)、2-「時間をより意識するようになった」(28.0%)、3-「事前の準備をしっかりするようになった」(19.5%)
「特に変化はない」も24.5%ありましたが、全体的に効率的に時間を使えるといった意見が多いようです。
■Q4 対面会議とビデオ会議で重視することは何か?
対面会議 1-「相手の表情をよく見る」(42.5%)、2-「相手に伝わりやすい言葉を使う」(41.8%)、3-「言葉のバランスを気にする」(34.8%)
ビデオ会議 1-「相手に伝わりやすい言葉を使う」(41.3%)、2-「言葉のバランスを気にする」(35.0%)、3-「会議の議題や流れをしっかり検討する」(32.0%)
社内会議ではビデオ会議のほうが効率的だと思っている人が半数以上を占め、社外会議で営業をする場合に関しては対面会議のほうが効率的だと思っている人が約7割を占めている結果も出ています。
■Q5 テレワークの導入により、今後どのようなビジネススキルが重要になると思うか?
1-「自身の意図を正確に伝えるコミュニケーション力」(58.5%)、2-「見やすく、わかりやすい資料作成力」(52.5%)、3-「会議の適切な設定、進行能力」(45.3%)
対面会議とビデオ会議では、長所と短所、重要視する内容がそれぞれ異なります。今後は、各々適する場面で使い分けることが主流になるでしょう。
【SB C&S「ビデオ会議に関する意識調査」プレスリリース】
9月から複数事業労働者向けの労災保険給付が始まりました
◆改正の趣旨
これまでは、複数の会社で働いている労働者の方について、働いているすべての会社の賃金額を基に保険給付が行われないこと、すべての会社の業務上の負荷(労働時間やストレス等)を合わせて評価して労災認定されないことが課題でした。
このため、多様な働き方を選択する方やパート労働者等で複数就業している方が増えているなど、副業・兼業を取り巻く状況の変化を踏まえ、複数事業労働者の方が安心して働くことができるような環境を整備する観点から、労働者災害補償保険法が改正されました。
◆改正の対象者
今回の改正制度の対象となるのは「複数事業労働者」の方です。「複数事業労働者」とは、被災した(業務や通勤が原因でけがや病気などになったり死亡した)時点で、事業主が同一でない複数の事業場と労働契約関係にある労働者の方のことをいいます。
被災した時点で複数の会社について労働契約関係にない場合であっても、その原因や要因となる事由が発生した時点で、複数の会社と労働契約関係であった場合には「複数事業労働者に類する者」として、改正制度の対象となります。また、労災保険に特別加入している方も対象になります。
◆改正内容
① 複数事業労働者の方への保険給付が、すべての働いている会社の賃金額を基礎に支払われるようになります(これまでは災害発生事業場での賃金額しか保険給付の基礎とされていませんでした)。
② 新しく複数の事業の業務を要因とする傷病等(負傷、疾病、障害または死亡)についても、労災保険給付の対象となります。新しく支給事由となるこの災害を「複数業務要因災害」といいます。なお、対象となる傷病等は、脳・心臓疾患や精神障害などです。
複数事業労働者の方については、1つの事業場のみの業務上の負荷(労働時間やストレス等)を評価して業務災害に当たらない場合に、複数の事業場等の業務上の負荷を総合的に評価して労災認定できるか判断します。これにより労災認定されるときには、上記の「複数業務要因災害」を支給事由とする各種保険給付が支給されます。
1つの事業場のみの業務上の負荷を評価するだけで労災認定の判断ができる場合は、これまでどおり「業務災害」として、業務災害に係る各種保険給付が支給されます。なお、この場合であっても、すべての就業先の事業場の賃金額を合算した額を基礎に保険給付されます。
③ 労災保険には、各事業場の業務災害の多寡に応じ、労災保険率または保険料を増減させる、メリット制があります。新設の複数業務要因災害については、メリット制には影響しません。一方、複数事業労働者の業務災害については、業務災害が発生した事業場の賃金に相当する保険給付額のみがメリット制に影響します。
テレワークの実施状況と企業の採用活動への影響
◆導入が広まったテレワーク
これまでは大企業やスタートアップ企業などでの導入が目立っていたテレワークですが、今年は新型コロナウイルス感染リスク防止の観点から急速に導入が広まりました。特に、緊急事態宣言が出された4~5月に、緊急対応的に始めた企業も多かったのではないでしょうか。
しかし、緊急事態宣言後、またテレワークの実施率にも変化が見られるようです。
◆テレワーク実施率の減少
厚生労働省が、LINE株式会社と協力して5回にわたり実施している「新型コロナ対策のための全国調査」によれば、最新の第5回調査(8月12-13日)では、第4回調査(5月1-2日)と比べて、オフィスワーク中心の人で「仕事はテレワークにしている」とした回答が40.8%⇒23.5%と低下していることがわかります。緊急事態宣言解除後に、一時的に実施していたテレワークを減らしたり、やめたりした例が多いことが読み取れます。
◆テレワークは企業の採用活動にも影響
実際に、業種によってはテレワークの実施が難しいという例もあるでしょうし、社内制度やインフラが整わずに実施できないという例も多いようです。ただ、一度テレワークを経験してきた人たちは、その便利さなどを経験してしまっていることから、元の意識に戻ることはなかなかできません。
株式会社リクルートキャリアが、全国の20~60代の就業者を対象に実施した新型コロナウイルス禍での仕事に関するアンケート(調査期間は8月7日~10日)によれば、転職検討中/活動中の人で、仕事選びの重視項目として「テレワークが認められている」を重視するようになった人の割合が大幅に増えているそうです。実際に、オンライン型転職エージェント「ジョブクル転職」を運営する株式会社スマイループスが実施した求人動向調査でも、求人タイトルに「在宅」または「テレワーク」が含まれる求人は、含まれない求人と比較して128%の高い応募率であることがわかったそうです。
◆変わる働き方
いま、働き方の意識は確実に変化してきています。テレワークの実施状況が今後の企業経営に与える影響は未知数ですが、今後、労働者の意識の変化にも目を向けながら、自社に最適の制度を検討していく必要があるでしょう。
副業・兼業ガイドラインが改定されました
◆副業・兼業の促進に関するガイドライン
企業に広く兼業・副業を認めることを促すよう、現行の法令のもとでどういう事項に留意すべきかをまとめた「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(以下、ガイドライン)が、9月に改定されました。企業も労働者も安心して副業・兼業を行うことができるよう、さらなるルールの明確化を目的としています。
◆改定の主な内容
今回の改定では、労働時間の通算管理や、安全配慮義務、秘密保持義務、競業避止義務、誠実義務等についての記述が新設されています。なかでも注目されるのが、労働時間の通算管理に関する事項です。長時間労働や健康被害を防ぐために、企業は、労働者からの自己申告により副業で働いた時間を把握し、本業と副業の労働時間を通算して労務管理を行うとしています。また労働時間管理については、簡便な労働時間管理の方法として、「企業の負担に配慮した管理モデル」(以下、管理モデル)が示されています。
◆企業の負担に配慮した管理モデル
管理モデルでは、副業・兼業の開始前に、当該副業・兼業を行う労働者と時間的に先に労働契約を締結していた使用者Aの事業場における法定外労働時間と、後から労働契約を締結した使用者Bの事業場における労働時間(所定労働時間及び所定外労働時間)とを合計した時間数が、単月100時間未満、複数月平均80時間以内となる範囲内において、各使用者の事業場における労働時間の上限をそれぞれ設定し、各使用者がそれぞれその範囲内で労働させるものとしています。
また、使用者Aは自らの事業場における法定外労働時間の労働について、使用者Bは自らの事業場における労働時間の労働について、それぞれ自らの事業場における36協定の延長時間の範囲内とし、割増賃金を支払うこととします。
これにより、それぞれの使用者は、副業・兼業の開始後においては、それぞれあらかじめ設定した労働時間の範囲内で労働させる限り、他の使用者の事業場における実労働時間の把握を要することなく労基法を遵守することが可能となるとしています。