2023年07月25日
性的少数者のトイレ使用制限に関する最高裁の初判断が示されました
◆国の対応を違法とする初判断
7月11日、戸籍上は男性で性同一性障害の経済産業省職員に対するトイレの使用制限について、最高裁第3小法廷は国の対応を「裁量権の範囲を逸脱し違法」とし、制限を不当と判断しました。
この制限は、女性トイレ使用に関する要望を受けて開かれた職員向け説明会でのやり取りを踏まえ経済産業省が決定したもので、下級審では判断が分かれていました。
◆判断理由
最高裁は「他の職員への配慮を過度に重視し、原告の不利益を不当に軽視するもので、著しく妥当性を欠く」とし、理由を次のように挙げています。
① 女性ホルモンの投与や≪…略…≫を受けるなどしているほか、性衝動に基づく性暴力の可能性は低い旨の医師の診断も受けている
② 女性の服装等で勤務し、本件執務階から2階以上離れた階の女性トイレを使用するようになったことでトラブルが生じたことはない
③ 数名の女性職員が違和感を抱いているように見えたにとどまり、明確に異を唱える職員がいたことはうかがわれない
④ 約4年10カ月の間に、上告人による本件庁舎内の女性トイレの使用につき、特段の配慮をすべき他の職員が存在するか否かについての調査が改めて行われ、本件処遇の見直しが検討されたこともうかがわれない
◆今後の対応
裁判官の補足意見には、使用制限について、当初の必要性は認めつつ、教育等により理解を得るための努力を行い、必要に応じて見直すなどが必要だったとするものがあります。
また裁判長は、今後、事案の積重ねを通じて指針や基準が形作られることに期待したいとしています。
2023年春闘は高水準~連合集計より
7月5日、2023年の春季生活闘争(春闘)の最終回答集計が連合より発表されました。その結果の概要をお伝えします。
◆賃上げの数値(月例賃金)は
5,272組合の「定昇相当込み賃上げ計」は、加重平均で10,560円(3.58%)と、昨年と比べると4,556 円(1.51ポイント)増えています。
上記のうち 300 人未満の中小組合3,823 組合は、8,021 円(3.23%)で、昨年比3,178 円(1.27ポイント)増える結果となりました。
賃上げ分が明確に分かる 3,186 組合の「賃上げ分」は 5,983 円(2.12%)、うち中小組合 2,019 組合は 4,982 円(1.96%)となり、いずれも賃上げ分の集計が開始された2015年以降で最も高い結果となっています。
有期・短時間・契約等労働者の賃上げ額は、加重平均で時給52.78 円(昨年比29.35 円増)、月給 6,828 円(同 2,831 円増)で、引上げ率は概算でそれぞれ 5.01%・3.18%となり、時給は一般組合員(平均賃金方式)を上回る結果になりました。
◆連合の見解
・企業内最低賃金協定改定の取組み組合数は昨年同時期並みだが、回答額は着実に上昇している。
・すべての労働者の立場に立った「働き方」の改善やジェンダー平等・多様性の推進に向けても数多くの取組みがなされている。
物価上昇が続く中、賃上げを前向きにとらえている企業は多くなっています。政府においても、最低賃金の「全国平均1,000円」達成を視野に議論が進められています。
今後も賃上げ機運は高まる予想で、企業としてもその分の利益確保が必須となるでしょう。
【連合「2023春季生活闘争 第7回(最終)回答集計結果について」】
シニア採用の現状と課題
マイナビが行った、非正規雇用の採用業務に携わった人を対象とした調査(2023年)の結果によると、人手不足を背景に、非正規雇用のシニア(65歳以上)の採用について、警備、介護、ドライバーといった業種で採用実績が高いようです。
○警備 89.4%(前年比1.2ポイント増加)
○介護 79.6%(前年比2.5ポイント増加)
○ドライバー 78.6%(前年比6.9ポイント増加)
◆シニアを採用する理由、採用したくない理由
この調査で、シニア採用をしている、または採用意向があると回答した人の「シニアを採用したい理由」としては、「人手不足の解消・改善に繋がるから」(51.2%)、「専門性が高い・経験が豊富」(37.1%)、「これまで採用したシニアが優秀だったから」(25.4%)といった回答が上位に挙がっています。
一方、シニアを採用したくない理由として、「体力や健康面に不安がある」(53.7%)という回答もあります。
これらを踏まえて既存の業務の見直しなどを行い、シニア採用を実施すれば、シニアのみならず今後の多用な人材の採用活動や、いったん退職した人の再雇用などの場面にも良い影響を与えるでしょう。
◆今後の課題
人手が不足している企業では、シニアの採用が今後いっそう検討すべき課題となります。一方で、今いる中堅社員の介護離職を防止する、「多様な働き方」に対応して自社の魅力アップにつなげるなどの取組みも重要となってきます。介護離職の防止に関しては、来年にも法改正が行われる見込みですので、今後の情報に留意しておきましょう。
【マイナビ「非正規雇用の外国人・シニア採用に関する企業調査(2023年)」】
永年勤続表彰金の社会保険、労働保険および課税上の取扱い
◆社会保険上の取扱い
今年6月27日に、「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」に以下の問答が追加されました。
問 事業主が長期勤続者に対して支給する金銭、金券又は記念品等(以下「永年勤続表彰金」という。)は、「報酬等」に含まれるか。
答 永年勤続表彰金については、企業により様々な形態で支給されるため、その取扱いについては、名称等で判断するのではなく、その内容に基づき判断を行う必要があるが、少なくとも以下の要件を全て満たすような支給形態であれば、恩恵的に支給されるものとして、原則として「報酬等」に該当しない。
ただし、当該要件を一つでも満たさないことをもって、直ちに「報酬等」と判断するのではなく、事業所に対し、当該永年勤続表彰金の性質について十分確認した上で、総合的に判断すること。
【永年勤続表彰金における判断要件】
① 表彰の目的
企業の福利厚生施策又は長期勤続の奨励策として実施するもの。なお、支給に併せてリフレッシュ休暇が付与されるような場合は、より福利厚生としての側面が強いと判断される。
② 表彰の基準
勤続年数のみを要件として一律に支給されるもの。
③ 支給の形態
社会通念上いわゆるお祝い金の範囲を超えていないものであって、表彰の間隔が概ね5年以上のもの。
◆労働保険上の取扱い
行政手引50502によると、「勤続年数に応じて支給される勤続褒賞金は、一般的には、賃金とは認められない。」とされています。
◆課税上の取扱い
国税庁のタックスアンサーNo.2591によると、創業記念で支給する記念品や永年にわたって勤務している人の表彰に当たって支給する記念品などは、一定の要件を満たしていれば、給与として課税しなくてもよいことになっています。
ただし、記念品の支給や旅行や観劇への招待費用の負担に代えて現金、商品券などを支給する場合には、その全額(商品券の場合は券面額)が給与として課税されます。
【厚生労働省「「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」の一部改正について」(令和5年6月27日事務連絡)】
精神障害に関する労災補償状況
~厚労省 令和4年度「過労死等の労災補償状況」より
◆令和4年度の精神障害の労災請求件数、支給決定件数は過去最多
厚生労働省が公表した令和4年度「過労死等の労災補償状況」によれば、仕事による強いストレスが原因で発病した精神障害の状況について、労災請求件数は2,683件で前年度比337件の増加、支給決定件数は710件で前年度比81件の増加となっています。
この数はいずれも統計開始から過去最多となっています。
◆業種別では医療・福祉、年齢別では40~49歳が最多
業種別では、医療・福祉(請求624件、支給決定164件)が最多となっており、次いで製造業(請求392件、支給決定104件)、卸売業・小売業(請求383件、支給決定100件)が続いています。
また、年齢別では、請求件数、支給決定件数いずれも40~49歳が最多となっています。
◆出来事の類型ではパワハラが最多
支給決定件数の出来事の類型別では「パワーハラスメント」が147件で最多となっています。その他、「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」や「セクシュアルハラスメント」などハラスメント関連の類型によるものが目立ち、ハラスメントに関する問題は影響が大きいことがわかります。
◆労災認定基準の改正も
精神障害の労災認定基準については、業務による心理的負荷評価表の見直し(具体的出来事にいわゆるカスタマーハラスメントが追加等)がされるなど、近く改正予定となっています。引き続き職場のハラスメント対応やメンタルヘルス対応については気をつけていきたいところです。
【厚生労働省「令和4年度「過労死等の労災補償状況」精神障害の労災補償状況」】
生成AIサービス利用時の注意点
◆目覚ましい発展を遂げる生成AI
ChatGPT等の生成AIサービスが話題です。プロンプトと呼ばれる質問・指示に対し、自然な文章で膨大なデータから導いた回答を返してくれることから、生産性の向上などに寄与するとされています。その反面、法的な整備が追いついていない点も多く、利用には注意も必要です。なかでも、個人情報や秘密情報の入力は避けるよう注意喚起されています。なぜなら、入力した内容はデータ学習に使用されることがあり、流出の懸念があるからです。企業において使用ルールを定めることは必須といえるでしょう。
◆使用ルールの策定
では、どのようなルールを策定すればいいのでしょうか。参考になるのが、一般社団法人日本ディープラーニング協会による「生成AIの利用ガイドライン」です。生成AIの活用を考える組織がスムーズに導入を行えるように、利用ガイドラインのひな型が公開されています。組織の目的やポリシー等に照らして、必要な追加や修正を加えることができます。「簡易解説付きガイドライン」では、データ入力に際して注意すべき事項、生成物を利用するに際して注意すべき事項に触れられており、社内での検討に役立つ内容になっています。また、個人情報取扱事業者が社内での積極的な活用を検討しているのであれば、個人情報保護委員会による「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」にも目を通しておきましょう。
「気づかないうちに社員が不適切な使用をして、問題に発展してしまった」ということのないよう、早めに対策を講じておきたいですね。
【個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」】
「建設工事従事者の安全及び健康の確保に関する基本計画」が変更されました
「建設工事従事者の安全及び健康の確保に関する基本的な計画」は、「建設工事従事者の安全及び健康の確保の推進に関する法律(「建設職人基本法」)」に基づき、少なくとも5年ごとに検討を加え、変更しなければならないとされています。今年6月変更の主な内容は以下の通りです。
1 安全衛生経費に関する記載の充実
安全衛生対策項目の確認表、安全衛生経費を内訳明示するための標準見積書の作成・普及/発注者、建設業者及び国民一般に対する安全衛生経費の戦略的広報の実施
2 一人親方に関する記載の充実
一人親方との取引の適正化等の周知
3 建設工事の現場の安全性の点検等に関する記載の充実
建設機械施工の自動化・遠隔化やロボットの活用等インフラ分野のDXにおいて、安全な工法等の研究開発・普及
4 建設工事従事者の処遇の改善及び地位の向上に関する記載の充実
新・担い手3法や労働基準法を踏まえた「働き方改革」の推進、処遇の改善、インフラ分野のDXの推進/職業訓練の実施による事業主への支援等
5 墜落・転落災害の防止対策の充実強化に関する記載の充実
屋根・屋上等の端、低所(はしご・脚立)からの墜落・転落災害防止対策のためのマニュアルの作成・普及/足場点検の確実な実施のための措置の充実、一側足場の使用範囲の明確化/足場の組立・解体中の墜落・転落防止対策の充実強化
6 健康確保対策の強化に関する記載の追記
熱中症、騒音による健康障害防止対策/解体・改修工事における石綿ばく露防止対策等/新興・再興感染症への対応
7 人材の多様化に対応した建設現場の安全健康確保、職場環境改善に関する記載の追記
女性の活躍促進のための取組み/増加する外国人労働者の労働災害への対応方法等/高年齢労働者の安全と健康の確保につながる取組み
働き方改革の推進や労災の防止については、当事務所がサポートできる面も多くあるかと思います。課題を共有し、対策を進めましょう。
【厚生労働省「建設工事従事者の安全及び健康の確保に関する基本的な計画」が変更されました】
雇用関係助成金ポータルの対象助成金が増えました!
◆新たに以下の助成金が電子申請の対象に
厚生労働省の雇用関係助成金については、電子申請ができます。今年の4月から利用開始となった雇用関係助成金ポータルは当初、キャリアアップ助成金(正社員化コース)とトライアル雇用助成金(一般トライアルコース)のみでしたが、6月26日より、以下の助成金が新たに電子申請の対象となりました。
労働移動支援助成金/中途採用等支援助成金/トライアル雇用助成金
地域雇用開発助成金/人材確保等支援助成金/通年雇用助成金
キャリアアップ助成金/両立支援等助成金/人材開発支援助成金
◆電子申請でできること
窓口への訪問が不要になり、時間問わず申請可能です。また、一度入力した情報の一部は繰り返し自動で反映させることができ、現状の申請状況や過去の申請履歴を確認することもできます。
◆電子申請の流れ
電子申請のログインIDとして使用するため、まずはGビスIDを取得する必要があります(初回のみ)。GビスIDの取得ができたら、助成金を探し、申請書に必要記載事項を入力して申請します。
雇用関係助成金には、様々な目的に合わせた助成金がありますので、自社に合った助成金コースを、取組内容や対象者、関連キーワードなどから検索して探すことができます。
※GビスIDとは?
行政手続等において手続きを行う法人を認証するための仕組みのことです。これまでの多くの法人向けオンライン行政サービスでは、手続システムごとにID・パスワードを作成する必要があり、利用者のアカウントの管理が煩雑でしたが、1つのID・パスワードで本人確認書類なしで様々な政府・自治体の法人向けオンライン申請(補助金申請、社会保険手続、各種認可申請など)が可能になります。
仕事と育児の両立支援、企業の半数が「業務に支障あり」
~東京商工リサーチの調査より
東京商工リサーチは、全国の企業を対象に「少子化対策」に関するアンケート調査を実施し、結果を公表しました。政府が進める少子化対策のうち、仕事と育児の両立支援について、企業の半数が「業務に支障が出る」と回答する結果となっています。調査はインターネットにより実施し、有効回答5,283社を集計、分析したものです。
※調査期間は令和5年6月1日~8日。資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義。
◆少子化対策の導入で「業務に支障が出る」と回答した企業は約半数
「少子化対策として、3歳までの子どもを持つ従業員の在宅勤務やフレックスタイム制の適用、就学前までの残業免除権の拡大などが検討されています。導入した場合、貴社の業務に支障が出そうなものは次のどれですか?(複数回答)」の質問に対し、「3つの選択肢のうち1つ以上支障が出る」との回答が、全企業の49.9%でした。
「支障あり」と回答した企業を規模別に見ると、「資本金1億円以上(大企業)」が51.9%、「同1億円未満(中小企業)」が49.6%と、大企業が2.3ポイント程度上回っています。
◆従業員が少ないほど「業務に支障あり」が低い傾向
従業員数別では、「支障あり」と答えたのは「300人以上」(59.7%)が最多でした。一方「5人未満」は25.7%で、「300人以上」と34.0ポイントもの差が見られました。従業員数が少ないほど「支障あり」と回答した企業の割合が低い結果となっています。
この結果について東京商工リサーチは、「中小・零細企業は、従業員の高齢化や採用難などで少子化対策の両立支援策が必要な年代が少ないことも要因と思われる。支援策が広がると従業員が育児に取り組みやすくなる一方、中小・零細企業では出産・育児を行う世代の雇用をさらに抑制することが危惧される」と分析しています。
◆産業別の最多は「製造業」、業種別の最多は「学校教育」
産業別では、「支障あり」と答えた企業は「製造業」(55.3%)が最多で、次いで「建設業」が52.8%、「小売業」が52.4%と、これら3産業では過半数を占めています。
また、業種別(母数10社以上)では、「支障あり」が最も高かったのは「学校教育」の81.8%でした。
【株式会社東京商工リサーチ「2023年「少子化対策」に関するアンケート調査」】
ジェンダーギャップ指数(2023年) 日本は125位
◆昨年とほぼ横ばい、過去最低順位
世界経済フォーラム(WEF)は、6月に2023年の各国における男女格差を数値化したジェンダーギャップ指数を発表、日本の総合スコアは0.647で昨年とほぼ横ばい、146カ国中125位(G7では最下位)でした。昨年より9つランクを落とし過去最低の順位となりました。なお、1位はアイスランドで総合スコアは0.912でした。
ジェンダーギャップ指数は、男性に対する女性の割合を示しており、経済、教育、健康、政治の4つの分野のスコアをそれぞれ算出し、その平均値として0(完全不平等)から1(完全平等)で評価されます。
◆経済・政治分野で低水準
分野別でみると、教育(識字率や就学率の男女比)は0.997(47位)、健康(出生時性比・健康寿命の男女比)は0.973(59位)と高水準でした。しかし、経済(労働参加率の男女比、同一労働における賃金の男女格差、管理職の男女比など)は0.561(123位)、政治(国会議員・閣僚の男女比など)は0.057(138位)で他の国に比べて低い水準となっており、男女の格差があることがわかります。
◆2030年までに女性役員を30%に
政府は6月、経済分野でのジェンダーギャップ解消のために、「女性版骨太の方針(女性活躍・男女共同参画の重点方針)」を発表しました。そこで岸田首相は、東証プライム市場に上場する企業を対象に、2025年をめどに女性役員を1人以上選任し、2030年までに女性役員の比率を30%にする目標を示しました。また、女性起業家の育成・支援、女性のデジタル人材の育成やリスキリングの推進なども掲げています。
【内閣府男女共同参画局「男女共同参画に関する国際的な指数」】
【内閣府男女共同参画局「女性版骨太の方針(女性活躍・男女共同参画の重点方針)」】
8月の税務と労務の手続[提出先・納付先]
10日
[公共職業安定所]
31日
[公共職業安定所]
[公共職業安定所]