2023年10月25日
雇用保険手続における事業主印の押印が廃止されています
◆大半の手続きは令和2年に押印を廃止済み
行政手続における押印は、手続きのオンライン化やテレワークの妨げになるとして、「規制改革実施計画」(令和2年7月17日閣議決定)により、恒久的な制度的対応として廃止されることとなりました。
厚生労働省関係の手続きにおいても既に廃止済みとなっていましたが、雇用保険手続のうち、一部の手続きで押印が存続していました。
◆10月より事業主印の押印はすべて廃止
押印が存続していたのは、(1)あらかじめ登録された印影と照合する「事業所設置届」、「事業所各種変更届」等、また(2)労働者が行う手続きですが、事業主の証明により支給要件を満たすことを確認する必要がある「再就職手当支給申請書」、「就業促進定着手当支給申請書」等です。
9月29日、「雇用保険法施行規則の一部を改正する省令」(厚生労働省令第124号)が発出され、10月1日よりこれらの手続きにおいても事業主印の押印はすべて廃止されました(金融機関に対する届出印等の一部を除く)。
◆書類の改ざん等のリスクはないか?
特に上記(2)の申請書等には、事業主として雇用期間中の賃金支払状況等を記載することとなるため、改正後の申請書等における改ざん等のリスクが気になるところです。
これについては、押印は廃止されたものの、改正後の申請書に「(注)記載内容について、記載した方に直接確認する場合があります。」との表示が行われ、改ざん等の抑止力を確保する対策が講じられています。
【厚生労働省「第182回労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会」】
増加する「ビジネスケアラ―」と介護離職防止対策
◆増える「ビジネスケアラ―」
「ビジネスケアラ―」とは、仕事をしながら家族等の介護を行う人を指す言葉で、経済産業省によると、2030年をピークに318万人に達すると推計されています。また、これによる経済損失は約9兆1,792億円にのぼるともいわれています。
◆介護離職防止の企業向けガイドライン
厚生労働省は、会社員が家族等の介護で離職するのを防ぐ目的で、企業向けの指針をまとめると発表しました。この指針には、企業が介護休業や休暇制度、介護保険サービス等について対象従業員に周知させたり、外部の専門家と連携し、介護事業所に提出する書類作成を肩代わりしたり、相談窓口を設置したりと、従業員の介護離職を防ぐ取組みを促す内容が盛り込まれる予定です。
◆介護のための短時間勤務制度がある会社は約8割
人事院の調査によると、介護のための短時間勤務がある企業は78.4%となっています。そのうち、短縮する週当たりの時間数の上限や、短時間勤務を行える期限の上限を設けている企業はいずれも88%以上を占めています。
◆介護離職防止において企業が求められること
育児・介護休業法に基づいて、既に休業・休暇制度を設けている企業は大多数だとは思いますが、従業員に周知されていなかったり、運用がうまくいっていなかったりするケースもあるようです。今年度中にも、介護離職防止の企業向けガイドラインが整備される予定ですので、ガイドラインが出て慌てて対応することのないよう、自社の制度をあらかじめ確認しておくとよいでしょう。
【人事院「令和4年民間企業の勤務条件制度等調査結果の概要」】
建設業の時間外労働の傾向
建設業については、適用が猶予されていた時間外労働の上限規制が、来年4月から開始されます。
◆時間外労働の傾向に業種の差
建設業の時間外労働については、帝国データバンクの「建設業の時間外労働に関する動向調査」(2023年8月時点)によると、次のように建設業全体の時間外労働時間は前年を下回っているものの、以下のように業種により増加している実態もみられました。
「建設業」の時間外労働時間DI(※) 48.8
…「はつり・解体工事業」 54.4
…「内装工事業」 52.4
…「建築工事業(木造建築工事業を除く)」 51.8
…「鉄骨工事業」 51.6
※ 時間外労働時間DIは、前年同月と比べて時間外労働時間が「非常に増加した」~「非常に減少した」までの7段階で質問し、算出した値。DIは0~100の値をとり、50超が増加、50未満は減少を表している。
◆業種に応じた対策を
「建設業」としては48.8(年平均でも48程度)で減少となっており、中には土木工事業(造園工事業を除く)で44.8といった業種もありますが、上に挙げた業種はこの1年を通して見たときも、50を超えることが多いようです。
一口に建設業といっても業種により特徴があります。また、この調査結果を見ると、季節的な繁閑のタイミングにも業種の差があるようです。
来年4月1日まで残された時間は多くありません。それぞれの業種の特性を踏まえ、時間外労働対策や時差出勤、テレワーク、時間年休といった取組みを早急に具体化していく必要があります。
一方、人材確保のためには、社内コミュニケーションを促進するなどの職場環境の改善も必要です。さまざまな課題がありますが、一つひとつ取り組んでいきましょう。
【帝国データバンク「建設業の時間外労働に関する動向調査(2023年8月)」】
雇用調整助成金の支給額算定方法が変わります
雇用調整助成金は、前年度の雇用保険料の算定基礎となった賃金総額を用いて1日あたりの助成額単価を算定する方法(平均賃金方式)等により支給額が算定されていましたが、その平均賃金方式が令和6年1月から廃止され、実際に支払った休業手当等の総額を用いた算定方法(実費方式)に一本化されることになりました。
◆改正前(令和5年12月31日以前の日を初日とする判定基礎期間まで)
支給額は、次のAまたはBと、Cを比較して、いずれか少ない方となります。
A:平均賃金方式(平均賃金額(※)×休業手当の支払率×休業等の延日数×助成率)
※労働保険の確定保険料申告書の賃金総額や被保険者数等から算定したもの
B:実費方式(実際に支払った休業手当等の総額×助成率)
↓AまたはBを選択して、Cと比較
C:基本手当日額の上限額(※)×休業等の延日数
※8,490円(令和5年8月1日現在)
◆改正後(令和6年1月1日以降の日を初日とする判定基礎期間から)
支給額は、BとCを比較して、いずれか少ない方となります。
B:実費方式(実際に支払った休業手当等の総額×助成率)
C:基本手当日額の上限額(※)×休業等の延日数
※8,490円(令和5年8月1日現在)
休業手当または教育訓練に係る賃金が、通常の賃金等と明確に区分されて表示されている賃金台帳等に加え、休業手当等の具体的な算定過程がわかる書類を整備し、労働局からの求めに応じて提出することが必要です。
改正前後いずれであっても、残業相殺によって上記により算定した額よりも支給額が少なくなることがあります。残業相殺については雇用調整助成金ガイドブックをご確認ください。
【厚生労働省「令和6年1月から支給額の算定方法を改めます(令和5年9月29日)」】
【厚生労働省「雇用調整助成金ガイドブック(令和5年9月29日現在版)」】
11月は「過労死等防止啓発月間」です
◆過重労働解消へ向けた取組みとして
厚生労働省は、「過労死等防止対策推進法」に基づき毎年11月を「過労死等防止啓発月間」と定め、過労死等をなくすためのシンポジウムやキャンペーンなどを行っています。
過労死等の件数は近年高止まりの状況にあるとされ、令和6年4月1日から時間外労働の上限規制が、建設の事業、自動車運転の業務、医業に従事する医師等にも適用されることもあり、引き続き、長時間労働の削減等の過重労働解消に向けた機運の醸成を行うことが求められています。
◆長時間労働が行われていると考えられる事業場等への重点監督
月間中は、長時間労働の是正や賃金不払残業などの解消に向けた重点的な監督指導などが行われ、その対象は以下の事業場等とされています。
重点的に確認する事項としては、時間外・休日労働が36協定の範囲内であるか、賃金不払残業が行われていないか、不適切な労働時間管理はないか、長時間労働者に対する医師による面接指導等、健康確保措置の有無等としています。
◆過重労働防止と労働者の健康
政府の令和5年版「過労死等防止対策白書」の概要によれば、就業者への調査で、理想の睡眠時間を6時間以上とした人が9割を占めた一方、実際に6時間以上確保できた人は全体の半数であり、産業医の視点から、過労の症状における睡眠がとれなくなることの危険性が指摘されています。
労働時間が長くなるほど睡眠時間は短くなる傾向にあります。企業としては、今後もこのような労働者の健康問題を踏まえ、過重労働防止の施策を考えていく必要があります。
仕事と育児の両立支援制度に関する意識・実態調査(連合の調査から)
◆調査の概要
仕事と育児の両立支援制度に対する意識や実態を把握するために、日本労働組合総連合会(連合)が実施する「仕事と育児の両立支援制度に関する意識・実態調査2023」の結果が公表されました。小学生以下の子を持つ20歳~59歳の働く男女1,000名が回答したこの調査は、仕事と育児の両立のために何が求められているのか、様々なヒントを与えてくれます。
◆調査結果のポイント
「仕事と育児の両立のために利用したことがある両立支援制度」を問う質問では、育児休業(41.9%)や短時間勤務(16.3%)が挙げられる一方で、「利用したことのある制度はない」は47.8%、男性では58.4%にのぼります。その理由の1位は「利用できる職場環境ではなかった」というものです。なぜそのように思ったのか、という質問には「代替要員がいなかった」(39.6%)が最も多く、「職場の理解が低かった」(33.7%)、「言い出しにくかった」(26.2%)、「自分にしかできない業務を担っていた」(20.3%)が続きました。
代替要員がいない、理解が低いという職場では、両立支援制度を利用しづらいという現状がうかがえます。こうした状況は採用活動においても不利に働き、いっそうの人手不足を生み出す負のスパイラルへと繋がってしまいます。両立支援を必要とする従業員のみならず、職場全体で考えるべき問題です。属人化している業務はないか、理解のない言動は見られないかなど、職場全体で両立支援について考えていきたいですね。
【連合「仕事と育児の両立支援制度に関する意識・実態調査2023」】
「年収の壁」への当面の対応・支援強化パッケージの詳細が発表されました
厚生労働省は、労働者が社会保険料の負担による手取り収入の減少を避けるために就業調整をする、いわゆる「年収の壁」問題への当面の対策として、支援強化パッケージの詳細を発表しました。パッケージは、10月から順次実施されます。
◆106万円の壁への対応
・キャリアアップ助成金のコースの新設
短時間労働者を新たに被保険者とする際に、労働者の収入を増加させる取組みを行った事業主は、一定期間助成(労働者1人当たり最大50万円)を受けることができます。
助成対象の取組みには、賃上げや所定労働時間の延長のほか、保険料負担に伴う手取り収入の減少分に相当する手当(社会保険適用促進手当)の支給も含まれます。
・社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外
事業主は、当該労働者に対し、給与・賞与とは別に「社会保険適用促進手当」を支給できます。また、労使双方の保険料負担を軽減する観点から、社会保険適用促進手当については、労働者負担分の保険料相当額を上限として、最大2年間、標準報酬月額・標準賞与額の算定に考慮しません。
◆130万円の壁への対応
・事業主の証明による被扶養者認定の円滑化
直近の年間収入が、被扶養者の認定の要件である130万円を超える見込みとなった場合、過去の課税証明書、給与明細書、雇用契約書等に加えて、人手不足による労働時間延長等に伴う一時的な収入変動である旨の事業主の証明を添付することで、直ちに被扶養者認定を取り消されることはなく、総合的に将来収入の見込み額から判断し、迅速な認定を受けることができます。
◆配偶者手当への対応
・企業の配偶者手当の見直し促進
令和6年春の賃金見直しに向けた労使の話し合いの中で、中小企業においても配偶者手当の見直しが進むよう、見直しの手順をフローチャートで示す等わかりやすい資料を作成・公表します。また、各地域で開催されるセミナーで説明、中小企業団体等を通じての周知活動を行います。
【いわゆる「年収の壁」への当面の対応について(令和5年9月27日 全世代型社会保障構築本部決定)】
ビジネス人材雇用型副業情報提供事業とは?
◆副業・兼業に関する情報提供モデル事業の概要
個人の自律的なキャリア選択やライフステージに応じた多様な働き方へのニーズの高まりから、厚生労働省は、副業・兼業を推進しています。その一環として、10月2日より、東京・大阪・愛知において、副業・兼業に関する情報提供モデル事業を始めました。
副業・兼業を希望する中高年齢者のキャリア等の情報やその能力の活用を希望する企業の情報を蓄積し、当該中高年齢者に対して企業情報を提供していくというもので、公益財団法人産業雇用安定センターが、厚生労働省の補助事業として実施するものです。
◆ビジネス人材雇用型副業情報提供のプロセス
雇用されている在職労働者が、他の企業でも雇用された上で副業を希望する場合、同センターのホームページを通じて登録すると、雇用型副業求人の情報が提供されます(相談・利用は無料)。一方、副業による人材の受入れを検討している企業(企業の所在地および就業地が東京・大阪・愛知の企業に限る)も求人登録をすれば、副業を希望する労働者の情報が提供されます(相談・利用は無料)。
労働者・企業双方が具体的な話を聞きたいとなれば、面談の場が設定されます。その後、合意に至れば採用(労働契約の締結)となります。
求人を出しても採用に結びつかない、必要なスキルをもった人材がいないなどの悩みを抱える企業にとっては、副業人材の雇用で、人材の確保、社内での新規事業創出、自社で活用できる他業種の知見・スキルの習得といった期待がもてます。
◆他社の従業員(常用労働者)の「副業・兼業」での受入れ状況
「雇用による副業・兼業」として他社の従業員を受け入れている企業の割合は11.4%、受け入れる予定の企業の割合は5.7%と、合わせて2割程度です(※)。
「副業・兼業」で外部人材を活用するノウハウがない、「副業・兼業」に関するマッチング支援機関が少ないといった課題も挙がっていますが、今後、状況は変わってくるかもしれません。
※従業員の「副業・兼業」に関するアンケート調査結果の概要(公益財団法人産業雇用安定センター)
11月は「「しわ寄せ」防止キャンペーン月間」です
厚生労働省は、中小企業庁および公正取引委員会と連携し、中小企業が働き方改革を進められるよう、11月を「しわ寄せ」防止キャンペーン月間とし、下請等中小事業者への「しわ寄せ」防止のための環境整備に努めることとしています。
◆発注者となることが多い大企業は、納期の適正化・発注内容の明確化を
働き方改革が推進される中、大企業・親事業者による長時間労働の削減等の取組みが、下請等中小事業者に対する適正なコスト負担を伴わない短納期発注、急な仕様変更、人員派遣の要請および附帯作業の要請などの「しわ寄せ」を生じさせている場合があります。
平成30年12月の下請中小企業振興法改正で、親事業者は、①自らの取引に起因して、下請事業者が労働基準関連法令に違反することのないよう配慮することや、②やむを得ず、短納期または追加の発注、急な仕様変更などを行う場合には、下請事業者が支払うこととなる増大コストを負担することなどが新たに盛り込まれました、
また、働き方改革関連法により改正された労働時間等の設定の改善に関する特別措置法では、他の事業主との取引を行う場合において、長時間労働につながる短納期発注や発注内容の頻繁な変更を行わないよう配慮することが、事業主の努力義務となっています。
◆しわ寄せで悩んでいる下請となる中小企業は、「下請かけこみ寺」に相談を
上記のような「しわ寄せ」が行われることがないよう、厚生労働省・中小企業庁・公正取引委員会は、「大企業・親事業者の働き方改革に伴う下請等中小事業者への「しわ寄せ」防止のための総合対策」(以下「総合対策」という)を取りまとめ、緊密な連携を図りつつ、「しわ寄せ」防止に向けた取組みを推進しています。
総合対策の一つである「下請かけこみ寺」では、中小企業が抱える取引上のトラブルを、専門の相談員や弁護士が解決に向けて信頼関係を崩さず、スムーズな下請取引を行うための価格交渉などをサポートします。
中途採用は即戦力重視の傾向が顕著
~マイナビ「中途採用実態調査(2023年)」より
株式会社マイナビが、2023年1~7月に中途採用を行った企業の人事担当者を対象(有効回答数1,600件)に「中途採用実態調査」を実施し、その結果を公表しました。
◆「即戦力の補充」のため、中途採用を実施
まず、直近半年(2023年1~7月)の正社員の過不足感について、「余剰」が27.3%(前年比1.9ポイント増)、「不足」が43.1%(前年比0.2ポイント減)となり、人手不足の状況が変わっていないことがわかります。また、役職やスキル別では、「スペシャリスト人材(IT人材など)」の不足が最も多く47.9%でした。
中途採用を実施した理由についての質問では、「即戦力の補充」が48.1%で最も多く、企業は専門的な知識やスキルを持っている人材を求めていることがうかがえます。なお、運輸・物流業では、「労働時間短縮への対応」が33.7%と全体平均より10ポイント以上高く、来年4月からトラックドライバーなどの残業時間上限規制が始まるため、「2024年問題」に向けた人材確保を進めていると考えられます。
◆今後の中途採用活動について
中途採用活動の課題についての質問では、「求職者の質が低い」が36.3%で最も高く、次いで「入社後、早期退職してしまう社員が増加している」が30.3%でした。
また、今後の中途採用の意向について、「積極的」が53.8%(前年比0.9ポイント増)で、「消極的」の8.1%を大きく上回りました。特に経験者採用を積極的に行うという回答(52.1%)も、未経験の採用を積極的に行うという回答(41.6%)を上回りました。
さらに、今後の採用基準については、「書類選考」「面接」ともに「厳しくする予定」と回答した企業が増加しました。企業は今後、より良い人材を厳選して採用していく方針であることも感じられます。
11月の税務と労務の手続[提出先・納付先]
10日
[公共職業安定所]
15日
30日
[公共職業安定所]